2023年8月17日
生物科学コース・西田翔准教授(植物栄養学分野)のグループは、植物の低栄養耐性にmRNA配列調節が関わることを発見しました。
本成果は、科学雑誌 Plant and Cell Physiology に「Role of potassium-dependent alternative splicing of MYB59 in maintenance of potassium concentration in shoots of Arabidopsis thaliana」として掲載されました。
(DOI: 10.1093/pcp/pcad080)
本研究の概要は以下の通りです。
植物は土壌中に含まれる無機栄養素を吸収することで生育します。自由に移動することのできない植物は、過酷な栄養環境でも生育できる優れた環境適応能力を有していると考えられています。
今回、西田翔准教授を中心とした研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究から、植物の三大栄養素の一つであるカリウムの欠乏耐性に関わる新しい分子機構を発見しました。
先行研究において西田らは、シロイヌナズナが低カリウム条件に曝されると、転写因子遺伝子「MYB59」がmRNA配列調節機構の一つである選択的スプライシングの制御を受けることでmRNAの配列が変化することを明らかにしていましたが、その意義については分かっていませんでした(Nishida et al. 2017 Plant J)。
今回研究グループは、低カリウム条件下でMYB59が選択的スプライシング制御を受けることで転写因子としての機能を発現させ、カリウム輸送を担うNPF7.3の発現を促すことで根から葉へカリウムが供給され、結果的に葉のカリウム不足を防いでいることを証明しました。これは、植物の低カリウム耐性にmRNAの配列調節が関わることを示す初めての成果です。
本研究は、日本学術振興会(16K18667、18KK0426、19H05637、22H02230)および文部科学省(18H05490、22H04815)の支援を受けて行われました。
【今後の展開】
本研究をさらに発展させ、植物の低カリウム耐性のメカニズムを解明することで、将来的に作物の低カリウム耐性を強化する技術につなげたいと考えています。農林水産省の「みどりの食料システム戦略」において化学肥料の使用量の30%低減の目標が掲げられています。また、昨今のウクライナ危機に起因して肥料価格の著しい高騰が社会問題となっています。持続可能で安定的な社会を目指す上で、作物の低栄養耐性を強化し、化学肥料への依存度を低減することは、人類にとっての重要な課題であると考えています。(西田)
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